クリームパンどろぼう 1999年3月


 
 フォルツァが我が家に来て1ケ月。フォルパパとフォルママが首をかしげ、おかしくて大笑いしてしまう出来事だった。

 3月下旬とはいえ、北海道はまだ春が来るには程遠く、札幌市内もまだ雪がたくさん残っていて子犬がお散歩できる時期ではなかった。早く暖かくなってお散歩に出かけたい。公園デビューもさせたいし・・・。どこの公園でデビューさせようか?なんてことをずーっと話したりもしてたけど、なにせ雪の中。お散歩はまだまだ当分無理。家にいてもたーいくつ・・・。「そうだ、3人で車ででかけよう。でもどこへ?まぁーいい。スーパーにでも行こう。フォルツァは入れないけどね。」早速フォルパパとフォルママが出かける支度を始めると、「いつもと何か違う」と気付いたのか?「置いてきぼりにされる」とあせったのか?フォルママの足元にまとわりついて離れない。おかげで支度にずいぶん時間がかかってしまった。「さあ、一緒に出かけるよ。嬉しい?」

  スーパーはすぐ近くだからあっという間に到着してしまった。今日は車の中で初めてのお留守番。フォルパパとフォルママは車の中を暖房でガンガンに暖めて、車内に危ないものがないか何度もチェックした。たった15分とは思っていても初めてのこと。心配で心配で後ろ髪をひかれる想いだった。「15分だけ、1人でお留守番していてね。必ず戻ってくるから。いい子にしていてね。」フォルママはそう言い残し、車の扉をそっと閉めた。すると「アン、アン、アン、アン」。大きな声でフォルツァがないている。車から降りてしまったフォルパパとフォルママに少しでも近づこうと必死な様子。後ろ足2本で立ち上がり窓ガラスをガリガリしている。「ごめんね。すぐに戻るから。車の中のお留守番もちょっとづつ練習しないといけないからね・・・。」フォルパパに「パパ、急いで用事を済ませて早く戻ってこよう。」とフォルママは言い、2人で小走りで店内へと急いだ。なんだか買い物した気分には全然なれなかったけど、とりあえず用事はさっさと済ませた。ピッタリ15分。時間どおり。フォルツァと約束したからね。

 「フォルツァはお留守番の間、1人でどんな風にしているのかしら?ずーっとなき続けているのかしら?いい子に眠っているのかしら?ちょこんと座っているのかしら?」気になって気になって仕方なかったのと、どんな様子にしているのかすごく見てみたかった。車の後方から、そーっとそーっと近づいてみた。フォルパパとフォルママは自分たちの車に近づくのに、きっとかなり怪しい動きをしていたに違いない。フォルパパは運転席の後ろの窓から、フォルママは助手席の後ろの窓から静かに覗きこんでみた。するとどうしたことか。なきごえは聞こえてこない。「あれっ?フォルは?」一瞬、姿が見当たらなかった。「あっいる。いる。」助手席で丸くなって眠たげな顔をしていたが、こちらの様子に気がつくとしっぽをふりふり大喜びしている。「なーんだっ。1人でもお留守番できるじゃない。いい子いい子。」と言いながら、フォルママはスーパーで買った品物を車にのせようと助手席の後ろの扉を開けた。その時、気が付いた。「あれっ。なに?このビニール袋?なに?このクリームパン?」「えっ・・・?」

 これは前置きしておかなければいけなかったんだけど、フォルファミリーはスーパーへ行く前にパン屋さんに行って、そこでクリームパンを2つ買っておいた。フォルパパとフォルママのぶん。帰ったら食べようと思っていた・・・。みなさんもご存知のとおり、パン屋さんって小さなビニール袋にパンを1つ1つ入れてセロハンテープでとめてくれる。そしてそれをさらにまたお店の名前の入った大きな袋に入れてくれる。フォルママはさらにそれを大きなバッグに「ポーン」と入れてファスナーは閉めていかなかった。だってとっても大きなバッグだったし、高さのあるバッグだったから・・・。こんなに何重にもしてあれば、「フォルツァがイタズラするなんてことは絶対にできない」って思って、車内の後部座席に置いてからスーパーへ行ったのでした。

 「このビニール袋は・・・?このクリームパンは・・・?」フォルママはよーく考えて、もう1度そのビニール袋に目をやった。するとそのビニール袋はセロハンテープがきれいにはがされて、クリームパンがちょうど半分まで何者かによって食べられている。でもすごーくきれいに食べてある。見事なくらいのぱっくりと半分になってしまった食べかけ・・・。ビニール袋もクシャクシャになっていなくって、なんだか半分のところまでめくった感じになっている。どういうこと?そしてその食べかけクリームパンのすぐ横には、もう1枚のビニール袋。そっちのビニール袋は何も残されていない。完全に1つのクリームパンがなくなっていた。

 フォルママの推理はこうだった。フォルパパが車のカギを閉め忘れ、車の中の物を盗まれてしまったのではないか・・・。そして何者かがクリームパンまでたいらげてしまったのではないか・・・。あわてて「パパ、他に盗まれた物はないの?」フォルママがこう言うとフォルパパは「お金とかは置いてないから盗む物がなかったのかな?何もなくなってないんだけど・・・。」と、のんきな返事。フォルママも後部座席に置いておいた大きなバッグの中身を確認したが、近所のスーパーへ行くのにたいした貴重品は入れておかなかったため何もなくなっていなかった。「フォルツァがなんでもなかったからよかったようなものの、とにかくこのクリームパン、気持ち悪いったらないよね。フォルファミリーが車に戻るのに気がついて、慌ててにげだしたのか?ドロボウめっ。」と辺りを見渡したけど、怪しそうな人も全くいない。そんなやりとりをフォルパパとしている間、フォルツァはキョトンと何も見ていなかった様な顔をしていた。とにかくこの気持ちの悪いクリームパンを片付けてしまおう。

 フォルママは助手席に乗り込み、フォルツァをだっこした。とってもいい子にしているし、なんだかひどく眠いらしい。「ネムネム顔はやっぱりかわいい」なんて思ってフォルツァの顔をじっと見た。「ちょっとまって・・・。フォルツァの口元。」そうです。クリームが下あごにベッタリ・・・。「フォルツァ。あなたが食べたの・・・?あんっなに大きなクリームパン。1人で1コ半も・・・。本当にフォルツァったら食べちゃったの・・・?」それはお腹いっぱいでさぞかし満足だったろうね。さぞかし幸せだっただろうね。 フォルパパもフォルママも完全に1本とられてしまった。あの何重にも袋にくるまれ、絶対に食べられるはずがないと思っていたクリームパン。本当に後部座席に置いてあったクリームパンは、食い散らかされていることもなく、誰かの食べかけをそっと置いてあったようなクリームパンだった。フォルツァは知らん顔してなかなかの役者だ。帰りの車の中では、もちろん爆睡・・・。きっとクリームパンにうもれながらおなかいっぱい食べている夢でも見ているのかしら?フォルパパとフォルママは大笑いして帰ったため、帰りにクリームパンを買いなおすことなんてすっかり忘れてしまった。

 子犬はなにをやってくれるかわからない。くわばらくわばら・・・。それ以来フォルパパとフォルママがクリームパンを食べようとすると、フォルツァが「ちょーだい。ちょーだい。」とすごーくしつこくなったの言うまでもない・・・。クリームパンを買った日は、みなさんご用心あれ。



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